Paul Craig Robertsは元経済政策担当の財務次官補で、ウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者。ビジネス・ウィーク、スクリプス・ハワード・ニュー ズ・サービスと、クリエーターズ・シンジケートの元コラムニスト。彼は多数の大学で教えた。彼のインターネット・コラムは世界中の支持者が読んでいる。彼 の新刊、The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the West、HOW AMERICA WAS LOST、The Neoconservative Threat to World Order.が購入可能。
調査結果は、英王立国際問題研究所、通称「チャタムハウス」が2月7日に発表した「What Do Europeans Think About Muslim Immigration?(記事はこちら)と題したリポートだ。その名の通り、欧州10カ国の国民約1万人に、イスラム圏から欧州に流入する移民についての考えを聞いている。
防衛隊は中東最強の軍隊のひとつで、イラク、シリア、レバノンといったシーア派系諸国でも大きな影響力を持っている。米国が防衛隊をテロ指定すると、イラン国内やシーア系諸国で反米ナショナリズムが扇動されて強硬派が台頭し、親欧米的な穏健派が力を失う。防衛隊は、制裁されるとむしろ影響力が増して得をする。イランはトランプと張り合う姿勢を見せ、2度目のミサイル試射を挙行した(イラン政府は2度目の試射の実施を否定)。 (Iran Launches Another Ballistic Missile) (Trump’s Reckless New Iran Provocation: Designating the IRGC)
米議会では、シーア派のイラン革命防衛隊だけでなく、スンニ派の世界的な政治組織である「ムスリム同胞団」をもテロ支援組織に指定して制裁する法案を検討している。同胞団は穏健派であり、テロ支援などしておらず、制裁は逆効果だ。米国内外の政府機関や専門家がそう言って同胞団制裁に反対しているが、トランプは無視している。米国のイスラム教徒の主要な合法団体は同胞団系で、それらが閉鎖されると、米国のイスラム教徒の政治活動は地下化し、テロがむしろ起こりやすくなる。トランプは、米国の孤立化や、中東から米国自身を締め出す流れを扇動している。要約ここまで。 (If you thought Trump's travel ban was bad, what he has planned next for American Muslims could be devastating)
だがその後、ロシアのチュルキン国連大使は2月7日、イランのミサイル試射は法的に国連の取り決めに違反しておらず、米国がイランが違法行為をしたと言っているのは驚きだと表明した。イランが試射したミサイルは核弾頭を搭載できるもので、同種のミサイル開発を禁止した国連決議に違反していると米国は言っているが、その条項がある国連決議は15年7月、オバマが作って可決された新たな国連決議(いわゆるイランとの核協定)によって上書きされた。新決議は、イランが核弾頭ミサイルの開発をしないことを望むと書いてあるが、明確な禁止事項として規定していないので、今回のミサイル試射は合法行為の範囲だとチュルキンは言っている。 (Iran missile work not violating UN bans: Russia’s Churkin)
ロシアのラブロフ外相は、イランが中東でのテロ退治に必須な勢力だと評価し、制裁に反対する姿勢を見せた。ロシアの外務次官も、米国のイラン再制裁(イラン核協定の再交渉)は中東を不安定な状態に引き戻すので危険だと警告している。 (Iran must be part of universal front against terrorism: Russia) (Russia says US idea of revising Iranian nuclear deal too risky)
やや脱線するが、国連安保理での最近の米露のやり取りからは、トランプが当初述べていた対露和解が棚上げされている感じが強まっている。米国の新任のヘイリー国連大使は2月2日、ロシアが併合したクリミアをウクライナ領に戻さない限り米国はロシア制裁を解除しないと宣言し、ウクライナ東部の混乱は(ウクライナでなく)ロシアのせいだと批判した。これは、これまでのトランプの親露姿勢から離れるものであり、ロシアのチュルキン大使は、米国はロシアに対する態度を変えたと指摘している。トランプ政権が対露姿勢を敵対方向に変えたことと、ロシアがイランの肩を持つようになったことは、連動している可能性がある。 (Donald Trump's ambassador to the UN condemns RUSSIA for 'AGGRESSIVE action' in Ukraine) (Churkin Detects 'Change of Tone' by US Envoy at UN Security Council Meeting) (Steering Trump Back to Endless War)
ロシアは、トランプのイラン制裁につき合わない態度を表明した後、イランに戦闘機を売ることを表明し、イランの空軍基地をロシア軍が使う話を蒸し返して、イランと軍事関係の強化に動いている。米国がイラン敵視を強めてもロシアがそれに乗らなければ、シリアやイラクでのIS退治は従前どおり露イランの主導で続き、何も変わらない。 (A warning to Trump? Russia floats return to Iran’s Hamadan air base)
トランプはイラン敵視を強めると同時に、サウジアラビアに対し、オバマ時代の米国が人権侵害を理由に輸出を停止していた武器を売る決定をするなど、イランを敵視するサウジへのテコ入れを強めている観がある。だがこれも、サウジの方が歓喜一辺倒かというとそうでもない。 (Trump set to approve blocked arms sales to S Arabia, Bahrain: Report)
サウジは最近、イランを敵視するだけだったこれまでの姿勢をやや転換し、中東におけるイランの台頭を容認しているふしがある。たとえばレバノンでは、政治台頭するシーア派のヒズボラとの敵対を緩和し、サウジは、ヒズボラが提案してきた和解策を受け入れ、召喚したままにしてあった駐レバノン大使を再任して戻した。レバノンは、かつてサウジの影響下にあったが、11年のシリア内戦勃発後、ヒズボラが台頭してサウジが追い出された。最近、シリア内戦がアサド・ヒズボラ側の勝利で終わりつつあり、ヒズボラはかつてサウジの傀儡として首相をしていたサード・ハリリを首相職に戻すことでサウジに和解を提案し、サウジはヒズボラが支配するレバノンとの関係再構築に同意した。 (Saudi Arabia to appoint ambassador to Lebanon: president's office)
サウジはペルシャ湾岸のアラブ産油国(GCC)を率いる国だが、GCCに加盟するクウェートの外相は1月末、GCCとイランを和解させるためイランを訪問した。イラン側が和解に前向きな姿勢をみせたため、まず石油の価格政策で協調していくことから話し合いを始めることが決まった。こうした動きの最中に、トランプがイラン敵視を強めている。対米従属色が濃いサウジやGCCは今後、米国に配慮してイランとの和解を進めるのを棚上げするかもしれない。だが、いずれ中東での米国の影響力がまた低下したら、サウジやGCCは再びイランに接近することになる。 (Saudi GCC to offer Iran ‘strategic dialogue’) (Iran minister: No problem for oil talks with Saudis)
▼トランプがまっとうな中東戦略をやらないのは意図的?
トランプのイラン敵視策を積極的に支持しているのは、世界中でネタニヤフのイスラエルだけだ。
イスラエルでさえ、軍やモサドといった諜報界が「今あるイラン核協定を壊すのはイランを強化してしまう」と猛反対するのを、ネタニヤフが無視してトランプとの同盟関係に賭けている状態だ。他の国々はみな、トランプのイラン核協約破棄(再交渉)に反対するか、懸念している。 (Israeli security establishment to Netanyahu: Don't touch Iran deal) (Israel’s inaction in Syria may open Golan to Iran)
要約に書いたように、米議会はトランプに扇動され、イラン革命防衛隊とムスリム同胞団という、シーアとスンニを代表する強い国際組織を、テロ支援組織に指定して制裁する新法案を検討している。これも、国際社会がつき合いきれない策だ。防衛隊は、シーア派主導の国になったイラクに入り込み、イラクの治安面を牛耳っているし、内戦のシリアでアサドの政府軍を助けてISアルカイダと戦い、今ではシリアをも牛耳っている。防衛隊の協力なしに、シリアやイラクでISアルカイダを退治できない。中東の安定を考えるなら、防衛隊の制裁はあまりに愚策だ。ロシアもEUもトルコも支持できない。 (A terrorism label that would hurt more than help) (Warnings for White House on terror designation for Iran Revolutionary Guard)
ムスリム同胞団は、アラブ諸国で圧倒的な最大野党だ。百年の歴史を持つ同胞団は、かつて暴力革命を追求していたが、1980年代以降は選挙でアラブ諸国の政権をとることを狙っており、テロ支援はやっていないと、米欧の中東専門家の多くが認定している。同胞団の発祥地であるエジプトでは、アラブの春の後の選挙で勝った同胞団政権を軍部がクーデターで倒したが、アラブ諸国が民主化するなら、同胞団は与党になれる存在だ。米国のイスラム教徒の最大コミュニティであるCairも同胞団の系列だ。同胞団をテロ支援組織に指定するのは、まっとうな策でない。 (If you thought Trump's travel ban was bad, what he has planned next for American Muslims could be devastating)
トランプは、まっとうな中東戦略をやろうとしていない。 私の以前からの分析は、トランプが米国の覇権を崩すことを隠れた最重要の目標としている、というものだ。この分析に沿って考えるなら、トランプがまっとうな中東戦略(国際、国内政策全般)をやらないのは、意図的なものだ。米国がまっとうな国際戦略をやらないほど、国際社会は米国に見切りをつけ、覇権体制が脱米国・多極化していく。 トランプは無茶苦茶をやりつつも、米政界を牛耳るイスラエルと良い関係を結び、米議会の反逆を抑えている。 (Trump might designate IRGC, Muslim Brotherhood terror groups)
Paul Craig Robertsは元経済政策担当の財務次官補で、ウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者。ビジネス・ウィーク、スクリプス・ハワード・ニュー ズ・サービスと、クリエーターズ・シンジケートの元コラムニスト。彼は多数の大学で教えた。彼のインターネット・コラムは世界中の支持者が読んでいる。彼 の新刊、The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the West、HOW AMERICA WAS LOST、The Neoconservative Threat to World Order.が購入可能。
Paul Craig Robertsは元経済政策担当の財務次官補で、ウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者。ビジネス・ウィーク、スクリプス・ハワード・ニュー ズ・サービスと、クリエーターズ・シンジケートの元コラムニスト。彼は多数の大学で教えた。彼のインターネット・コラムは世界中の支持者が読んでいる。彼 の新刊、The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the West、HOW AMERICA WAS LOST、The Neoconservative Threat to World Order.が購入可能。